【ノベライズ版】ナツのおしらせ

【ノベライズ版】ナツのおしらせ 第4話『蝋燭の火を灯せ』

投稿日:2016年12月31日 更新日:

原作:凸もりMk-2  執筆:円伎丸(きゃっとまん)


スポンサーリンク

第4話『蝋燭の火を灯せ』

 河原。

 ついた時既に、嫌な予感が当たったと思った。それに、

 まさかこんな光景を、この町で見ることになるとは思わなかった。

 気がおかしくなりそうな音だった。サイレンも、足音も、野次馬たちの声も、すべての音があの日を思い出させる。いつもの平和で静かな苑御町はもう、そこには存在していなかった。

 あれは警察官か野次馬か。あれはパトカーか自家用車か。あの光は何だ。パトカーの警告灯か、それともこの星を襲わんとする巨大なフレアの光か。

 疲れきった脳は、何も理解しようとはしてくれなかった。

 凸もりは電話のことなどすっかり忘れて、

 ――夏祭りか?

 我ながら間抜けだと思う。

 凸もりは野次馬たちの間をすり抜け、黄色に黒の危険色で「立入禁止」を意味する言葉が書かれた非粘着性ポリエチレンのテープを飛び越え、こんな時間にこんなところへ自分を呼び出した上司の元へ向かう。交番へ来い、なんて言っておいて。

「すみません、遅れました」

「いや、こっちこそこんな時間に呼んでしまってすまなかった」

 予想以上に素直に謝られ、行き場を失った怒りは逆に凸もりを冷静にさせた。

「――いえ気にしないでください。それで、現場の状況はどんな感じなんですか?」

「ああ、今丁度鑑識が仏さんの死因を調べているところだ」

 既に鑑識が入っている、ということは直接遺体を見ることはできないということだ。不思議なほどに頭が冴え渡っている。あまりに唐突過ぎて、脳が事実を受け入れられていないのかもしれない。そして、

「被害者の顔写真とかって、見ることできますか?」

 それが正しかったことは、すぐに証明された。

「ああ、それくらいなら大丈夫だ。ええと、」

 しばらくポケットをごそごそやって、ほら、と言ってようやく探し当てた一枚の紙をこちらに差し出してきた。

 

 見た。

 

 何も聞こえなかった。

 気づいた時には夜は明けていて、凸もりは家にいて、居間の畳の上に仰向けにぶっ倒れていた。自分がどうやって家に帰ってきたのかも、何も覚えていなかった。自分が覚えているのは、電話に出て、戸越家を飛び出したところまでだ。昨日あの後に一体何があったのか、凸もりはまだ少し痛む頭でなんとか思い出そうとする。

 目を閉じたまま必死で頭を働かせて、あと少しで思い出せそうだというところで、

 ――っ!

 激しい頭痛に見舞われた。そして次の瞬間、昨日の記憶が目茶苦茶な順番で噴き出してきた。

 走り去るパトカー。大勢の野次馬。泣き叫ぶ女性。写真に写った笑顔の少女。携帯カメラのシャッターの音。警告灯の光。たくさんの足音。帰り道に躓いた石ころ。危険色のテープ。転んで擦りむいた右肘。野次馬たちの視線。川に石を投げる子供。星の見えない夜空。警察官たちは大慌てで走り回り、パトカーの扉が開いて、そこから見覚えのある一人の男が降りてきた。

 思い出した。

 

 ――こんなのどかな田舎で殺人だなんて、本当物騒な世の中だな。何があるかわかったもんじゃない。

 見覚えのあるくたびれた雰囲気の顔に、見覚えのある性格のきつそうなつり目に、見覚えのある茶髪に混じった白髪に、見覚えのあるぼさぼさの無精髭に、見覚えのある茶色のジャケットに、聞き覚えのある台詞と声だった。

 ――あん? 誰だよお前、は…………藤田じゃないか。

 下の名前はよく知らない。稲葉警部と呼んでいた。呼んでいた、というのはつまり、今は警部でなく警部補であるということだ。隣町に転勤になった、と言っていた。しかしだ。あれほどの人がどうして降格処分を食らって、こんな辺鄙な田舎町に転勤になったのか。思い当たる理由はやはり、一つしかなかった。何度後悔してもしたりない。どれほどの恩を作ってしまっただろうと思う。あんな事件を起こして、それでも自分のことを庇ってくれた。一生を掛けても返せる気がしないほどの恩だ。

 ――俺は鑑識や周りの警官に事情を聞いてくるから、お前は周辺住民の聞き込みを頼む。

 ということは、自分はその後聞き込みをしたはずなのだ。しかし、ほとんど覚えていない。覚えているのは大した情報が得られなかったことと、泣き叫ぶ平川ナツの母親と、

 凸もりは目を開けた。いつも通り、何も変わらない居間の天井だった。眩しさに目を細め、稲葉の最後の言葉を、頭の中で何度も何度も繰り返していた。それを聞いて解決しなかった事件は今まで一つもない、心の底から安心感を得られる言葉だ。

 ――まあなんだ。

 今回もきっと、大丈夫だ。

 ――こんな胸糞悪い事件はさっさと解決して、二人で酒でも飲みに行こうぜ。

 

<<前話 次話>>

投稿者プロフィール

えんきまる(きゃっとまん)
えんきまる(きゃっとまん)10さいの女の子
わたしは、小学5年生で、小せつを書くのが、すきです。なぜなら、小せつを書くのは、たのしいし、おも白いと思うからです。がんばって書くから、よんでください。
スポンサーリンク
スポンサーリンク

-【ノベライズ版】ナツのおしらせ

執筆者:


コメントを残す

関連記事

【ノベライズ版】ナツのおしらせ 第6話『降霊術のすゝめ』

原作:凸もりMk-2  執筆:円伎丸(きゃっとまん) スポンサーリンク 第6話『降霊術のすゝめ』  その弁当は未知の味がした。  いつも食べている、慣れ親しんだ一つ五百円のぼったくり海苔弁当のはずなの …

【ノベライズ版】ナツのおしらせ 第2話『邂逅相遇』

原作:凸もりMk-2  執筆:円伎丸(きゃっとまん) スポンサーリンク 第2話『邂逅相遇』  私の一番の思い出。私の心の拠り所。私にとって、一番大切なもの。  どうしても、見つけなくてはいけないと思っ …

【ノベライズ版】ナツのおしらせ 第3話『メメント・モリ』

原作:凸もりMk-2  執筆:円伎丸(きゃっとまん) スポンサーリンク 第3話『メメント・モリ』  二十時十八分五十三秒。    長すぎる、と思う。  怒られたのは「時間に遅れたから」だ。な …

【ノベライズ版】ナツのおしらせ 第1話『夏は空に溶けて、』

原作:凸もりMk-2  執筆:円伎丸(きゃっとまん) スポンサーリンク 第1話『夏は空に溶けて、』  あの日から丁度、八十年の時が過ぎた。      今日は異常なほどに暑い。これが …

【ノベライズ版】ナツのおしらせ 第7話『「いい」か「悪い」か』

原作:凸もりMk-2  執筆:円伎丸(きゃっとまん) スポンサーリンク 第7話『「いい」か「悪い」か』 「あんたたち、まだつき合ってないの?」  十八時五十二分、戸越家である。さすがに二日続けて遅刻す …